経過年数を考慮した賃借人の負担すべき原状回復費用が示された事例
東京簡易裁判所判決 平成14年7月9日
1 事案の概要(原告:賃借人X 被告:賃貸人Y)
賃借人Xは、平成11年3月、賃貸人Yと賃料月額7万1000円で賃貸借契約を締結し、敷金14万2000円を差し入れた。
賃借人Xは、平成13年3月、本件契約を賃貸人Yと合意解除し、本物件を賃貸人Yに明け渡したが、賃貸人Yは賃借人Xに対し、本物件の壁ボードに空けられた穴、その他の修理費及び清掃業者による清掃費用等、原状回復費用として合計24万4100円を支出したとして、賃借人Xに返還すべき敷金14万2000円及び日割戻し賃料1万1774円の合計15万3774円を対等額で相殺した後の残金9万326円の支払を求めて提訴した。
他方、賃借人Xは、敷金の精算に関しては、壁ボードの穴の修理費用のほかは、賃借人Xの負担部分はない、その修理費用は保険の適用を受けて支払うとして、敷金を含む15万3774円の支払を求めて提訴した。
2 判決の要旨
これに対して裁判所は、
(1)壁ボードの穴については、賃借人Xの過失によるものであることに争いがないので、賃借人Xは修理費用全額1万5000円を負担すべきである。
(2)壁ボード穴に起因する周辺の壁クロスの損傷については、少なくとも最小単位の張替えは必要であり、これも賃借人Xが負担すべきである。
なお、その負担すべき範囲は約5?であり、本件壁クロスは入居の直前に張替えられ、退去時には2年余り経過していたから残存価値は約60%である。
そうすると賃借人Xが負担すべき額は、?単位1700円に5を乗じた金額の60%である5100円となる。
(3)台所換気扇の焼け焦げ等は、賃借人Xの不相当な使用による劣化と認められる。
なお、換気扇が設置後約12年経過していることから、その残存価値は新規交換価格の10%と評価される。よって賃借人Xは換気扇取替え費用2万5000円の10%の2500円を負担すべきである。
(4)証拠によれば、賃借人Xの明け渡し時に、通常賃借人に期待される程度の清掃が行われていたとは認められず、賃貸人Yが業者に清掃を依頼したことはやむを得ないものと認められる。
そして、清掃業者は居室全体について一括して受注する実情に照らせば、賃借人Xは、その全額3万5000円について費用負担の義務がある。
(5)以上から、賃借人Xが請求できるのは、返還されるべき敷金及び日割戻し賃料から6万480円(上記の合計及び消費税額)を差引いた9万3294円とした。