原状回復の特約及び別記の「修繕負担項目」により損耗の程度に応じた賃借人の負担 を認めた事例
東京地方裁判所判決(平成6年8月22日)
1 事案の概要(原告:賃貸人X 被告:賃借人Y)
賃貸人Xは、昭和63年9月16日、賃借人Yに対し、本件建物を賃料月額21万7000円、共益費月額1万8000円で賃貸した。
本件契約には、原状回復義務として、契約終了時には賃借人は自己の費用をもって遅滞なく原状回復(その具体的内容は契約書末尾に記載)の処置をとり賃貸人に明け渡す旨の条項があった。
平成4年5月28日、賃借人Yは本件建物を退去したが、賃貸人Xは賃借人Yが平成2年6月分以降の賃料及び共益費を支払わず、また、賃借人Yが退去にあたり何ら補修をしなかったため、賃貸人Xがカーペットの敷替え、壁等のクロスの張替え等の原状回復工事費用(65万6785円)を支払ったとして、賃借人Yにそれらの支払を求めた。
2 判決の要旨
これに対して裁判所は、
(1)カーペット敷替えは、それまで行う必要はなく、クリーニング(1万5000円)で十分である。
(2)クロス張替えは壁・天井ともやむをえない(26万8000円)が、下地調整及び残材処理は賃借人に負担させる根拠はなく、認められない。
(3)畳表替えは、取替えではなく、裏返しで十分であった(2万1600円)。
(4)室内クリーニングは、700円/?として認められるべきである(5万4082円)が、室外クリーニングは契約の合意項目にないので賃借人Yに負担させるべきでない。
(5)以上から、現状回復義務の特約部分を認め賃借人Yは賃貸人Xに35万8682円を支払うよう命じた。
なお、賃借人Yが一審敗訴部分の取消しを求めて控訴した。控訴審(東京高等裁判所判決平成7・12・26、判決の詳細不明)は、賃借人Yの控訴を棄却した。